1980年代、日本の自動車産業が飛躍的に成長する中で、ホンダはF1に本格参戦し、そのエンジニアリング技術を市販車へと反映させる取り組みを進めていました。中でも注目されたのが「初代レジェンドターボ」。当時、ホンダのF1ターボエンジンは世界の舞台で圧倒的なパフォーマンスを誇っており、市販車ユーザーもその技術の恩恵を受けられるのではないかという期待が高まりました。
初代レジェンドとは?その立ち位置と開発背景
ホンダ・レジェンドは1985年にデビューし、同社初の本格ラグジュアリーセダンとして位置づけられました。初代モデルは当初、3.5L V6 NAエンジン搭載でしたが、後に2.0Lターボ仕様(レジェンド ターボ)が追加され、より力強い走りを求める層に支持されました。
このモデルは、ホンダがアキュラブランドとして北米高級市場へ進出する足がかりともなり、同時に技術的にも大きな意味を持つ車両でした。
F1ターボと市販車ターボの関係
ホンダのF1ターボエンジン(RA163Eなど)は、当時1.5L V6ターボながら1000馬力以上を発揮するモンスターユニットでした。これに対し、市販車のレジェンドターボに搭載されたエンジンは2.0L直列4気筒SOHCターボで、出力は145ps程度と控えめですが、ターボチャージャーの制御技術やエンジンの冷却設計、耐久性強化の思想にはF1の影響が垣間見られます。
例えば、ホンダF1のPU開発の軌跡(公式)でも語られるように、エンジンの熱管理や過給圧制御の技術は、F1で得た知見が量産エンジンへフィードバックされていました。
レジェンドターボでF1の「凄さ」を感じられたか
実際に乗ってみると、レジェンドターボは非常に静粛性が高く、トルクの盛り上がりも穏やかです。F1のような荒々しい加速とは異なり、「大人のための高級セダン」という趣でしたが、それでもターボによる力強い中間加速や、低回転からのトルク感は当時としては先進的であり、「これはただのファミリーカーじゃない」と感じさせる走りが味わえました。
例えば、1980年代の2.0L自然吸気エンジン車が110~130ps前後であったのに対し、レジェンドターボは約145ps。高速道路での合流や坂道での余裕ある加速は、所有者にF1の技術が活きていると感じさせるには十分でした。
当時の他メーカーと比べたホンダの技術優位性
トヨタのクラウンや日産ローレルなどのライバル車もターボ車を展開していましたが、ホンダはFF(前輪駆動)+ターボという組み合わせを積極的に採用していた点でユニークでした。トルクステア対策や車体剛性の確保にはF1から得たデータが応用され、安定性と快適性を両立していました。
また、F1開発陣と市販車部門の技術交流が密に行われていたホンダならではの試みとして、「エンジンのレスポンスチューニング」や「燃調マップの細かさ」といった細部にもF1テクノロジーが息づいていたとされています。
まとめ:F1の魂を宿すレジェンドターボ
レジェンドターボは、F1マシンのような極限性能こそ持っていないものの、その根底に流れる「技術を極める」というホンダの精神と、F1由来の技術思想が確かに反映された1台でした。乗ることで、当時のホンダがいかにF1と市販車の架け橋を真剣に考えていたかを実感できるはずです。
もし今、あの車にもう一度乗ることができたなら、懐かしさとともに、「あの時代にこんな先進的な車があったのか」と再評価する人も多いことでしょう。
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