かつて一部の国産車には「エンジン縦置き」の前輪駆動(FF)方式が採用されていました。初代ターセルやホンダ・インスパイアなどがその代表です。なぜこの方式は現在ではほとんど見られなくなったのでしょうか?本記事では、縦置きFFの特徴や利点、そして姿を消した理由について詳しく解説します。
縦置きFF方式とは?
縦置きFFとは、エンジンを車体に対して縦方向に搭載し、その動力を前輪に伝える構造です。通常、縦置きは後輪駆動車に多く採用されますが、かつてはFFでも存在しました。
代表的な車種には、トヨタ・ターセル(初代〜2代目)やコルサ、ホンダ・ビガー/インスパイアなどが挙げられます。これらは、エンジンとトランスミッションが前後方向に並ぶ構造を採用していました。
縦置きFFの利点
縦置きFFの最大のメリットは、ホイールベースの確保による広い室内空間です。特にトランスミッションの配置により、前輪の位置を下げることができ、結果としてキャビンを後方に拡張しやすくなります。
また、車両の前後重量配分がFR(後輪駆動)に近くなり、走行安定性が高くなるというメリットもありました。操縦性や走行フィールを重視した車種には好都合だったのです。
なぜ縦置きFFは廃れたのか
縦置きFFの構造は、部品点数が多くコストが高くなりやすいという欠点がありました。エンジンとトランスミッションのレイアウトが複雑であり、製造コスト・整備性ともに劣ります。
また、現代の横置きFFでは駆動効率やコスト、軽量化、部品共通化の点で大きなメリットがあり、自動車メーカー各社がそちらに舵を切りました。
横置きFFの進化と車両設計の変化
1990年代以降、横置きエンジンの小型化とトランスミッションの一体化が進み、スペース効率が大幅に改善されました。これにより、縦置きにこだわらなくても十分な室内空間が確保できるようになったのです。
また、プラットフォームの共通化(モジュール化)が進み、横置きFFをベースにしたAWDやハイブリッド車も容易に構築できるようになったことで、縦置きFFの存在意義はますます薄れました。
現在でも縦置きエンジンは存在するが
現在も高級セダンやSUV(例:BMWやメルセデス・ベンツ)は縦置きエンジンを採用していますが、これらはFRまたは4WDが基本です。FFのまま縦置きという構造は、現在ではほぼ消滅しています。
ホンダのSH-AWDやアウディのクワトロシステムなど一部例外はありますが、それでも主流は横置きです。
まとめ:合理化の波に押されて消えた縦置きFF
縦置きFFはかつてホイールベースの確保や走行性能の面で利点がありましたが、コストと設計効率の問題から現代の自動車開発にはそぐわなくなりました。結果として、多くの車種が横置きFFに統一され、縦置きFFは過去の技術となったのです。
技術的な進化と製造効率化の流れの中で、選ばれなくなったレイアウト――それが縦置きFFの実態といえるでしょう。
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