日産フェアレディZ(RZ34)に採用されている9速オートマチックトランスミッションは、走行性能とダイレクトな操作感を重視した設計となっています。しかし、街乗りでの扱いやすさに関して「1速発進が強すぎる」という声も多く聞かれます。ベンツ製の同様の9速ATがコンフォートモードで2速発進することと比較して、なぜZではその仕様が採用されなかったのか。今回はその理由と技術的背景を探ります。
1速発進にこだわる理由:Zらしさを重視した設計思想
フェアレディZはスポーツカーとしての走行性能を第一に設計されています。1速発進はトルクを最大限に活かし、鋭い加速を演出するためには不可欠です。
たとえば、街中の発進信号からのスタートでも、1速からトルクをしっかりかけることでZらしい「蹴り出すような加速感」が味わえるようになっています。この加速感は、単なる日常の移動手段としての車ではなく、“走りを楽しむためのZ”にふさわしい演出と言えるでしょう。
2速発進を採用しない理由:走行モードと制御のバランス
多くの高級車で2速発進が採用されているのは、滑らかさや乗り心地を重視した結果です。たとえばメルセデス・ベンツの9G-TRONICは、ドライバーの操作を自動で学習し、コンフォートモードでは滑らかなスタートを演出します。
一方、RZ34のノーマルモードは“コンフォート”ではなく“スポーツの入り口”として位置づけられており、2速発進によるもっさり感を避けている可能性があります。ダイレクト感を維持しつつ、適度に快適性も確保する絶妙なバランスを追求しているのです。
9速ATのベースはベンツ製?共通点と違い
RZ34に搭載されている9速ATは、メルセデス・ベンツの9G-TRONICとは別設計ですが、ZF製などの欧州系トランスミッションをベースにしているという説もあります。しかし、日産はこれに独自のプログラム制御を加え、Zのキャラクターに最適化しています。
たとえば、ATの変速制御ロジックや発進ギアの選定は、車両重量、エンジン特性、タイヤサイズまでを考慮してチューニングされており、他社製トランスミッションの単純流用では得られない一体感を生んでいます。
制御コストと2速発進の実現可能性
2速発進自体はソフトウェア制御で実現可能であり、ハード的な追加コストはほぼかかりません。ただし、信頼性やドライバビリティへの影響、各モード間での制御整合性などを調整するには、テスト工数や開発リソースが増えるため、結果的にコストに跳ね返るケースもあります。
RZ34では、そこまでコストをかけずとも、1速でも制御でスムーズさを保つ方向を選択したと考えられます。
ドライバーができる対策:発進時のコツ
1速発進が気になる場合、発進時にアクセルをじわっと踏み込むことでスムーズな加速に繋がります。慣れてくると無意識に繊細な操作ができるようになり、ギクシャク感も自然と解消されることが多いです。
また、社外製ECUチューニングやペダルレスポンスコントローラーを用いることで、発進特性を好みに調整するオーナーも増えています。
まとめ:1速発進はZの個性、2速発進は快適性の象徴
フェアレディZ(RZ34)があえて1速発進を採用しているのは、Zらしいドライビングフィールを重視した結果です。快適性よりも加速感やレスポンスを優先した設計は、スポーツカー本来の価値を追求しているとも言えます。
2速発進が選べるモードや設定が今後追加される可能性もありますが、現時点ではその“荒々しさ”もZの魅力の一部。愛着をもって付き合うことで、より深くドライビングを楽しめる一台となるでしょう。
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