高齢患者の運転中止を家族から依頼された場合、医師がとるべき対応と法的責任について

運転免許

高齢ドライバーの運転リスクが社会問題となる中で、医師がその是非に関わる場面も増えています。家族から「運転をやめさせてほしい」と依頼された場合、医師がどこまで関与できるのか、また法的責任が問われる可能性はあるのか、不安を感じることもあるでしょう。本記事では、医師が取るべき対応や法的リスク、実際の対応例について詳しく解説します。

高齢ドライバーの医的管理と認知機能の評価

高齢者の運転に関する判断では、長谷川式スケール(HDS-R)などで認知機能の低下が認められることがありますが、それだけでは運転免許の返納や制限には直結しません。認知症と診断されていない場合でも、医師としては患者の安全と社会的リスクを考慮する必要があります。

HDS-Rが20点台前半の場合は「軽度認知障害(MCI)」とされる可能性もあり、運転リスクは高いと考えられます。実際に交通事故リスクも統計的に高い水準です。

医師の法的責任はどこまで及ぶか

医師が患者に運転中止を助言したにもかかわらず事故が起きた場合、基本的には法的責任を問われることはほとんどありません。医師法や道路交通法上、義務的な通報責任はないため、助言・説明を行っていれば、責任を免れるのが一般的です。

ただし、全くの無関心や放置が明確に証明された場合には、まれに民事訴訟で損害賠償請求されることもありえます。対策としては、診察記録に「運転リスクの説明と助言を行った」と記録しておくことが重要です。

公安委員会への任意通報制度について

道路交通法では、医師は任意で公安委員会に通報することが可能です(第101条の6)。これは認知症が疑われる場合に限らず、明確なリスクがあると医師が判断したときにも認められています。

ただし、軽度認知障害の段階では通報後に対応されるかどうかはケースバイケースであり、確実に免許停止に繋がるとは限りません。とはいえ、重大事故の予防や後々のトラブル防止のためにも、正当な根拠と診療記録を基にした通報は検討に値します。

現場での説得と家族との連携のポイント

家族からの要望があっても、本人が納得しなければ運転をやめさせることは困難です。特にプライドが高く頑固な性格の高齢者には、「診断ではなく予防的な観点から運転の再考をおすすめする」といった柔らかいアプローチが有効です。

また、「ご家族と一緒に運転能力を見直す機会として、専門医の検査を受けてみては」と促すことで、感情的な対立を避けることも可能です。

リスク回避のために記録しておくべきこと

  • 診療記録に「運転中止を助言した」「家族からの要望があった」などを明記
  • 可能であれば家族にも説明し、同席での助言を行う
  • 本人が拒否した場合の言動も記録

これらの記録が後々のトラブルや責任追及から医師を守る重要な手段となります。

まとめ:責任回避と適切な対応のために

高齢者の運転に関する医師の立場は難しいものですが、法的責任は限定的であり、重要なのは適切な助言と記録です。公安委員会への任意通報も視野に入れつつ、家族と協力しながら安全な運転環境の構築に努めましょう。

万が一の事態に備えても、冷静かつ専門的な視点での対応が、医師自身と患者家族双方の安心に繋がります。

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