現在ではATは8速やCVT、MTも6速が当たり前となっていますが、昭和の日本車には2速ATや3速MTといった少ない段数のトランスミッションが普通に存在していました。特に1960〜1980年代のトヨタ・コロナなどの大衆車では、これらの“簡素な”ミッションが標準的だったのです。当時のクルマ事情や技術背景を知ると、「そんなギア数で本当に大丈夫だったのか?」という疑問の答えが見えてきます。
当時の標準仕様:2速ATや3速MTは珍しくなかった
1960〜70年代の日本車、特に大衆車や小型車では、コストや信頼性の面からトランスミッションは非常にシンプルに設計されていました。トヨタ・コロナやパブリカ、ダイハツ・コンソルテなどでは、3速MTが標準、4速や5速は上級グレードやスポーツモデル用といった傾向がありました。
一方、AT(オートマチック)も普及途上にあり、初期のATは油圧式の2速が主流でした。2速ATはトヨグライドやダイナフローなどの名前で知られ、操作性の簡便さが魅力でしたが、高速走行や燃費には限界がありました。
なぜギア数が少なくても走れたのか?
当時の道路環境を考えると、現代ほど高速度域を求められる場面は少なく、市街地や郊外での巡航速度はせいぜい60〜80km/h程度。それに合わせてギア比が設計されていたため、3速MTでも日常的な運転には十分対応できました。
また、エンジンのトルク特性が低回転寄りで粘りがあり、発進時のトルク不足を感じにくかった点も要因です。2速ATでは発進から巡航までを2段でカバーしており、変速ショックは大きめでも扱いやすさが重視されていました。
当時の燃費性能とギアの関係
少ないギア段数は、エンジン回転数の最適化が難しいため、燃費性能では現代車に劣るのが当然でした。たとえば、1970年代の1.5Lクラス車の実燃費は7〜10km/L程度が一般的。今のハイブリッド車の20〜30km/Lと比べれば、当然非効率ですが、当時はこれでも十分という認識でした。
その分、車体重量も軽く、装備も最小限で、車の構造自体がシンプルだったため、維持コストは比較的安価でした。
3速MT車の高速性能は?
3速しかなくても、高速道路を走ること自体は可能でした。最終ギアが直結かオーバードライブ気味の設定になっているため、100km/h巡航も可能でしたが、エンジン回転数は非常に高く、騒音や振動が大きいという弱点がありました。
また、登坂時のギア選びが限られるため、シフトダウンしてもパワー不足に感じるシーンも多く、結果として「回して走る」運転スタイルが主流でした。
現代の感覚では不思議でも、当時は「普通」だった
2速ATや3速MTが当たり前だった時代は、道路も車も“今ほど速くなくて当然”という前提で動いていました。ユーザーも燃費や静粛性より、「壊れない・手軽・安い」ことを重視していたため、ギア数が少ないことに特段の不満はなかったのです。
それが1980年代に入り、高速道路網の拡充や燃費意識の高まりと共に4速ATや5速MT、そしてオーバードライブ付きのミッションが主流となっていきました。
まとめ:シンプルなギアでも時代に合っていたクルマたち
2速ATや3速MTは、現代の視点では「大雑把」「効率が悪そう」と感じられるかもしれません。しかし、それらは昭和の時代背景と技術の中で、必要十分な性能を持った“合理的な選択肢”だったのです。今の基準で判断するのではなく、当時のライフスタイルと道路事情に目を向けることで、その魅力と意義が見えてきます。
コメント