時折インターネットやSNSで話題になる「水だけで走る車」。一見すると環境に優しく、コストもかからない夢のような話ですが、現実には科学的に不可能とされており、多くの場合は誤解や意図的な誇張を含んだ情報です。本記事では、水だけで走る車の仕組みとされる技術の正体、なぜこのような話が出回るのか、そしてそれにどう向き合うべきかを解説します。
水からエネルギーを取り出すことは可能か?
「水だけで走る」とされる車の原理としてよく語られるのが「水素の電気分解」です。水(H2O)を電気で分解して水素(H2)を取り出し、燃料として燃やす、あるいは燃料電池で電力を得るという仕組みです。
しかし、水から水素を取り出すには大量の電力が必要であり、この時点でエネルギーの供給源が“水”ではなく“電力”になります。つまり「水だけで走る」というのは誤解であり、正確には「電力を使って水を変換し、その結果得られる水素で走る車」です。
なぜ「水で走る車」が誤解を招くのか
この種の話が拡散される背景には、いくつかの要因があります。
- 科学的な理解の不足:電気分解やエネルギー保存則についての基礎知識がなければ、魅力的な話として信じてしまう人も少なくありません。
- センセーショナルな発言による拡散:「水で走る」といったインパクトのある表現はメディアやSNSで拡散されやすく、誤解を広めてしまいます。
- 詐欺や誇大広告:過去にはこうした“水で走る”装置を販売し、高額な費用を請求する詐欺的な事例も存在しています。
水素燃料車との違いは?
トヨタの「MIRAI」に代表される水素燃料車は、確かに“水”を排出しますが、使用するのは「圧縮水素ガス」であり、水をその場で分解して使っているわけではありません。
水素ステーションで専用の燃料を補給し、それを燃料電池で電力に変えてモーターを駆動させるため、燃料の段階で既に高いエネルギーを外部から注入しています。ここが「水から自力で走る」と主張する車との決定的な違いです。
過去にあった“水で走る車”の例とその結末
2000年代には「水エンジン」と称する製品が実際に特許出願されたり、試作車が登場した例もあります。しかし、いずれもエネルギー保存則に反するものであったり、水以外の燃料や電力供給を隠していたケースが判明しています。
たとえば、「水を入れるだけで走る」とされた某車両は、実際には水と一緒にアルミや特殊薬剤が反応して水素を発生させる化学反応式であり、「水だけ」という表現は不正確でした。
科学的な視点で考える力を
科学技術は夢を実現してきた歴史がありますが、それでも基本的な物理法則を超えることはできません。エネルギー保存の法則はその中でも最も基礎的な原則です。
「水だけで走る車」は、エネルギーを生み出すどころか、実際には大量の電力を消費する構造であるため、効率面でも経済性でも現実的とは言えません。
まとめ:夢の技術と現実の技術を見極めよう
「水で走る車」という言葉は魅力的に聞こえますが、現実には科学的根拠に欠ける話が多く、誤解や不安を招きかねません。現代のエネルギー問題は複雑であり、それを解決するには夢ではなく、地に足のついた技術と冷静な視点が求められます。
私たちが未来の技術を見極めるには、科学的な素養とメディアリテラシーが何より大切なのです。
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