オフロード性能に定評のあるトヨタ・ランドクルーザーですが、パジェロなどと比べてフロントタイヤの位置がやや後方にある点に気づいた方も多いのではないでしょうか。アプローチアングルの観点からは、もっと前方にタイヤがあった方が有利に思えるのに、なぜこのような設計が取られているのでしょうか?本記事では、その理由と背景にあるオフロード設計思想について解説します。
アプローチアングルとフロントタイヤの位置関係
アプローチアングルとは、前輪タイヤ接地点からフロントバンパーまでの角度のことで、この角度が大きいほど急な坂や障害物にぶつかりにくくなります。タイヤをより前方に配置すればこの角度を稼ぎやすく、理論上はオフロード性能が向上します。
三菱パジェロやジムニーなど一部のオフローダーでは、タイヤ位置を前方に出すことで最大限のアプローチアングルを確保している例もあります。
ランドクルーザーがあえて後ろ寄りに配置する理由
ランドクルーザーの設計では、単純にアプローチアングルだけではなく、サスペンションのジオメトリーや耐久性、悪路走破性全体のバランスを重視しています。特にフロントサスペンションの動きやホイールアーチ内のクリアランスを確保するため、タイヤの位置を中央寄りに配置しているのです。
また、岩場や未整地での走行においては、フロントオーバーハングが障害物に当たっても、丈夫なバンパーやアンダーガードで受け止める前提で設計されています。
車両全体のバランスを重視した設計思想
ランドクルーザーは単なるクロカンSUVではなく、世界中の過酷な環境下での耐久性と信頼性を最優先にした設計がなされています。フロントタイヤの位置もその一環で、ステアリング切れ角の確保、足回りの整備性、サスペンションストロークの最適化など、多くの要素が絡んでいます。
特にフルフレーム構造を採用しているランドクルーザーでは、サスペンションのマウント位置やエンジン配置との関係から、タイヤを極端に前に出すのは現実的ではありません。
アプローチアングルが不利にならない工夫
フロントタイヤが後方にあるとはいえ、ランドクルーザーのアプローチアングルは設計上しっかりと確保されています。たとえば300系ランドクルーザーでは、32°以上のアプローチアングルを持ち、これは競合する多くのSUVと同等かそれ以上です。
また、フロントバンパー下部の形状を跳ね上げることで、実際の接触リスクを軽減。最低地上高の確保と合わせて、“ぶつかりにくい構造”をトータルで設計している点も見逃せません。
歴代パジェロとの思想の違い
パジェロは一貫して“都市とオフロードの両立”を目指した設計であり、短いオーバーハングや前方タイヤ配置によって敏捷な動きを実現してきました。一方、ランドクルーザーは悪路での安定性・耐久性・積載性を重視するため、設計アプローチが異なります。
このように、「どちらが上か」ではなく、「どんな走行条件に最適化されているか」の違いと理解するのがポイントです。
まとめ:ランドクルーザーのフロントタイヤ位置は“走破性全体”を考えた結果
ランドクルーザーがフロントタイヤをやや後ろに配置しているのは、アプローチアングルの犠牲ではなく、耐久性・バランス・走破性をトータルで成立させるための設計思想です。たしかに見た目では不利に感じられるかもしれませんが、実際には高度に計算されたパッケージングが成り立っており、それが世界中で信頼される理由の一つとなっています。
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