TRD製の機械式LSDは高い性能と耐久性で知られていますが、経年劣化によってイニシャルトルクが低下することは避けられません。特にOHキットが廃番となった現在、再調整や修復には創意工夫が求められます。この記事では、シム増しによる対策や他車流用を含めた実践的な再調整の方法について解説します。
LSDのイニシャルトルクとは?
イニシャルトルクとは、LSDがクラッチプレートの摩擦で左右のタイヤを強制的にロックさせようとする初期のトルクのことです。ホイルナットをかけて手で回す簡易測定法でも、おおよその作動トルクを把握することが可能です。
一般的には2kgf・m以下では作動が緩く感じられ、走行性能にも悪影響を及ぼす可能性があります。定期的な点検と再調整が大切です。
OHキット廃番の影響と現実的な対処
TRDの一部LSD用オーバーホールキットは現在廃番となっており、純正の方法での再調整が困難です。サラバネやクラッチプレートが破損していない限り、「シム増し(シムの厚みを増してイニシャルトルクを回復させる)」が有効な手段になります。
ただし、過剰にシムを挟むとクラッチ板の余裕がなくなり、異常摩耗やジャダーの原因にもなるため、純正同等か0.1〜0.3mm単位で慎重に調整する必要があります。
他車種のシム流用は可能か?
TRD機械式LSDにおいては、同じトヨタ系プラットフォームを採用した車種(例:86/BRZ系、旧型マークIIやアルテッツァなど)のシムが流用できる場合があります。サイズ(外径、内径、厚み)の一致が必要条件です。
実際に86用LSDの1.5WAYに、JZX100系マークIIのプレートを流用したユーザーもおり、その際は0.3mm厚のシムを追加して約1.8kgf・m→3.0kgf・mへ回復しています。
シム増しを行う際の注意点
- 厚すぎるシムはLSD内のクリアランスを圧迫し、作動不良や破損のリスクがあります。
- トルクレンチによるトルク管理と作動確認は必須。
- 新品シム購入時は、部品商や金属加工業者を通じて汎用サイズの調達が可能です。
また、サラバネに破損や歪みがある場合は、LSDユニットごとの交換を視野に入れた方が安全です。
シム増し以外の代替策
イニシャルトルク回復を目的とする他の方法としては、クラッチプレートの再研磨(荒らし)による摩擦力回復や、社外品LSD(CUSCO、OS技研など)への載せ替えも検討できます。
費用対効果の面では、TRD純正を維持しつつのシム増しが最もリーズナブルで現実的な選択肢といえるでしょう。
まとめ:知識と工夫でLSDの性能を蘇らせる
TRD機械式LSDのイニシャルトルクが低下している場合、シム増しは有効な再調整手段です。他車種のシム流用や社外パーツの活用も可能ですが、構造理解と慎重な作業が求められます。
丁寧に再調整を行えば、廃番パーツの問題を乗り越えて、LSDの性能を十分に取り戻すことが可能です。車好きにとって、こうした工夫こそがメンテナンスの醍醐味といえるでしょう。
コメント