高齢ドライバー=AT車というイメージが根強い中、「80代でもMT車に乗り続けている」という声も現実にあります。この記事では、高齢者がMT車を選ぶ背景や、それが安全性とどう関係するのかを実例とともに丁寧に掘り下げていきます。
MT車を選ぶ高齢者は「好み」ではなく「慣れ」で選んでいる
若者世代にとってMT車は「趣味性が高い乗り物」に映るかもしれません。しかし、高齢者世代にとってMT車は「標準仕様」でした。
1980年代以前の免許取得者の多くがMTで教習を受け、そのままMT車を使い続けてきたという背景があります。つまり、MT車が「慣れているから安心」なのです。
MT車だからこそ“集中力が保たれる”という声も
一部の高齢ドライバーからは「MTの方がボケ防止になる」「操作が多いから眠くならない」といった意見もあります。
たしかに、ギアチェンジや半クラッチといった動作は、注意力・判断力・身体操作のバランスを求められます。これが逆に“覚醒状態”を保つ助けになるという見方もあるのです。
AT車=安全、MT車=危険という単純な話ではない
高齢ドライバーによる事故の原因としてよく挙げられる「ペダル踏み間違い」は、むしろAT車で起こりやすいと言われています。MT車の場合、発進時にクラッチ操作が必要なため、誤発進のリスクが低く抑えられる傾向にあります。
もちろん、判断能力や反応速度の低下があればMTでもATでも危険は伴いますが、「ATの方が簡単だから安全」とは一概に言えません。
今MT車が少ないのは、高齢者のせいではない
現在の国内新車市場では、AT車の割合が9割を超え、MT車はごく限られた車種しか選べません。これは高齢者に限らず、若者や働く世代にとっても「MT車が欲しくても買えない」という現状を意味します。
つまり、高齢者がAT車を選ぶ理由が「慣れ」ではなく「選択肢がないから」になっているケースも多くあるのです。
実例紹介:80代でMT車に乗り続ける知人の話
筆者の知人である80代男性は、長年スズキのMT軽自動車に乗っており、本人曰く「ATの方が怖い。手がヒマになるから逆に気が抜ける」とのこと。
買い替えを検討した際には、「今のMT車が壊れたら運転は引退」とまで語っており、MT=生活の一部という感覚が色濃く残っています。
年齢で線を引くのではなく「個別の能力」で考えるべき
高齢者叩きの言説にありがちな「高齢=運転NG」は危険な発想です。実際には、年齢よりも運動機能・認知機能・運転への意識の方が重要です。
定期的な運転技能チェックや主治医との相談を通じて、「今も運転が適切か」を見極めることが、高齢ドライバーの尊厳を守るカギです。
まとめ
• 高齢者がMT車を選ぶのは“好み”ではなく“慣れ”による安心感。
• AT車の方が誤発進リスクが高くなることもあり、必ずしも安全とは限らない。
• 新車でMT車がほとんど選べない現状が、選択の自由を奪っている。
• 「高齢=危険」ではなく、個人の能力と環境に応じた判断が大切。
年齢で一律に判断するのではなく、“その人らしい運転”が可能かを冷静に見極める視点を持ちたいものです。
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