AT車のシフトレバーには、レバーを階段状の溝に沿って動かす「ゲート式」と、基本的に前後へ動かす「ストレート式」があります。かつてはゲート式を採用する乗用車が数多くあり、カチッ、カチッとレバーを動かす操作感を好むドライバーも少なくありません。
ところが近年の新車を見ると、昔ながらのゲート式シフトレバーはかなり少なくなりました。これはゲート式そのものに重大な欠点があったからというより、ATの電子制御化、車内レイアウトの変化、電動車の普及などによって、大きな機械式レバーを使う必要性が薄れてきたことが大きく関係しています。
この記事では、ゲート式シフトとはどのような仕組みなのか、なぜ減少したのか、ストレート式や現在の電子シフトとの違い、そして将来ゲート式が復活する可能性まで順番に解説します。
そもそもAT車の「ゲート式シフト」とは?
ゲート式シフトとは、シフトレバーの通り道が一直線ではなく、左右方向への動きを組み合わせた階段状・ジグザグ状になっている方式です。PからR、N、Dなどへ移動するとき、決められた溝に沿ってレバーを動かします。
英語の「gate」には門や仕切りという意味があります。シフトレバーの移動経路を物理的に区切ることで、狙ったポジションへレバーを動かしやすくする考え方です。
例えばDから別のレンジへ移す際に横方向への操作を必要とする構造なら、単純にレバーを前後へ勢いよく動かしただけでは一気に複数のポジションを通過しにくくなります。この「手でポジションを選んでいる感覚」がゲート式ならではの魅力でもあります。
ゲート式とストレート式は何が違う?
ストレート式では、P・R・N・Dなどのポジションが基本的に一直線上に並びます。レバーを前後方向へ動かしてポジションを選択するため、構造や操作方法を直感的に理解しやすいのが特徴です。
一方のゲート式は、レバーを前後だけでなく左右にも動かします。そのため操作量ではストレート式より多くなる場合がありますが、各ポジションへ入ったときの手応えを感じやすく、目視しなくてもレバーの位置を把握しやすいと感じる人もいます。
| 比較項目 | ゲート式 | ストレート式 |
|---|---|---|
| レバーの動き | 前後+左右 | 主に前後 |
| 操作感 | 強く感じやすい | シンプル |
| ポジションの区切り | 形状で認識しやすい | 一直線に配置しやすい |
| デザイン | 機械的な印象 | 比較的シンプル |
どちらが優れているかは一概には決められません。ゲート式の操作感を好む人もいれば、ストレート式の素早くシンプルな操作を好む人もいます。
ゲート式シフトレバーが減った最大の理由は電子制御化
ゲート式が減少した背景を理解するうえで重要なのが、ATのシフト・バイ・ワイヤ化です。従来はシフトレバーの動きを機械的な機構などによってトランスミッション側へ伝える方式が一般的でしたが、現在はドライバーの操作を電気信号として検出し、制御装置へ送る方式が広く採用されています。
電子制御なら、シフト操作装置を大きなレバーにする必然性がありません。小型レバー、スイッチ、ボタン、ダイヤルなどでもP・R・N・Dの選択情報を伝えられます。
例えばレバーをDへ動かしても、そのレバーをDの位置に物理的に固定しておく必要がないタイプがあります。操作後にレバーが中央位置へ戻り、現在のシフトポジションはメーターなどに表示される方式です。こうなると、階段状のゲートを設けるメリットも小さくなります。
EV・ハイブリッド車の普及もシフトレバーを変えた
電気自動車(EV)の普及も大きな変化です。エンジン車の多段ATでは複数の変速段を切り替えるトランスミッションが重要な役割を担いますが、多くのEVではモーターの特性上、エンジン車と同じような多段変速機を必要としません。
そのため運転者が日常的に選択するのは実質的にP・R・N・Dなどが中心となり、巨大なシフトレバーをセンターコンソールに設置する必要性がさらに低下します。
ハイブリッド車についても電子制御との相性がよく、独自形状の小型シフトや電制シフトが採用される車種があります。つまり、クルマの中身が変化したことで、シフトレバーの形にも自由度が生まれたわけです。
センターコンソールを広く使えることも重要
現在の自動車では、センターコンソールのスペースが以前より重要になっています。スマートフォン、ドリンクホルダー、大型収納、USB端子、ワイヤレス充電器など、運転席と助手席の間にはさまざまな装備が求められるからです。
大きなゲート式シフトレバーを設置すると、その周辺にはレバーを動かすためのスペースが必要です。小型の電子シフトやボタン式に変更すれば、その空間を収納などに利用できます。
また電子シフトならセンターコンソール以外にも配置しやすくなります。インパネやステアリングコラム付近などへ移動させれば、前席周辺の設計自由度をさらに高められます。
ゲート式には今でも魅力がある
効率や省スペースという観点では電子シフトに利点がありますが、クルマを「操作する楽しさ」という観点ではゲート式にも独特の魅力があります。
レバーを握り、溝に沿って動かし、ポジションが変わったことを手の感触で確認する一連の動作には、ボタン操作とは違った機械的なフィードバックがあります。腕時計でいえば、スマートウォッチとは別に機械式時計を好む人がいることに少し似ています。
特に過去のスポーティーな車種や高級車などでゲート式に慣れ親しんだ人にとっては、シフト操作そのものが車内デザインの一部として記憶されていることもあります。そのため中古車を選ぶ際に、ゲート式であることを魅力の一つとして考える人もいるでしょう。
ゲート式シフトが再び流行する可能性はある?
将来、ゲート式が完全に復活しないと断言することはできません。ただし、現在の自動車技術の方向性を考えると、かつてのように一般的なAT車へ大量採用される可能性は高くないと考えられます。
シフト・バイ・ワイヤが普及した現在では、メーカーはシフト操作部をかなり自由に設計できます。わざわざ大きな階段状ゲートを用意しなくても、より小さな操作装置で同じ機能を実現できるためです。
一方で、スポーツカーや趣味性の高いモデルでは事情が異なります。電子制御でありながら、あえて機械的なクリック感や特徴的な操作方法を与えることは可能です。将来的に「機能上必要だからゲート式にする」のではなく、「運転する楽しさを演出するためゲート式風の操作系を採用する」車が登場する余地はあります。
中古車ならゲート式ATを楽しめる選択肢はまだある
ゲート式シフトが好きな場合、新車だけでなく少し前の世代の中古車まで対象を広げると選択肢は増えます。2000年代から2010年代前半を中心に探すと、ゲート式を採用した国産車や輸入車を見つけられることがあります。
ただし中古車はシフト方式だけで選ぶのではなく、年式、走行距離、整備履歴、部品供給状況、安全装備なども確認することが大切です。特定のシフト形状を楽しむために古い車を選ぶ場合は、購入後の維持費まで含めて検討しましょう。
なお、車種・年式によってシフト機構は異なるため、気になる車がある場合はカタログや取扱説明書、メーカー資料などで仕様を確認するのが確実です。
まとめ:ゲート式が消えつつあるのは「必要なくなった」ことが大きい
AT車のゲート式シフトが減った背景には、単純な流行の変化だけではなく、シフト・バイ・ワイヤなどの電子制御化、EV・ハイブリッド車の普及、センターコンソールの省スペース化、車内設計の自由度向上といった複数の理由があります。
かつてはシフトレバー自体が変速機を操作するための重要な機械的インターフェースでしたが、現在は「ドライバーがどのレンジを選んだか」を電気信号で伝えられるため、大型レバーや階段状ゲートを採用する必然性が小さくなりました。
とはいえ、ゲート式特有のカチッとした操作感や機械的なデザインには、効率だけでは測れない魅力があります。今後の主流になる可能性は限定的でも、趣味性の高い車で操作感を重視したシフト機構が採用されたり、中古車で往年のゲート式を楽しんだりする選択肢は残りそうです。


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