ミクニTMRキャブレターを選ぶ際、ヨシムラのTMR-MJNではなく、一般的なジェットニードルを使用する通常のTMRをあえて選ぶ考え方があります。MJNには優れた霧化性能やレスポンスという明確な特徴がありますが、それだけで通常TMRの存在価値がなくなるわけではありません。
特に、自分でキャブレターセッティングを細かく作り込みたい人、従来型キャブレターの調整方法に慣れている人、既存のセッティングデータを生かしたい人にとっては、ジェットニードル式TMRのほうが目的に合う場合があります。
TMRとTMR-MJNは単純な上位・下位というより、燃料供給の考え方が異なるキャブレターとして比較するのが適切です。それぞれの仕組みを理解すると、なぜMJNではなく通常TMRを好む人がいるのかが見えてきます。
通常TMRとTMR-MJNの大きな違いは燃料供給方式
通常のTMRでは、従来型キャブレターと同様にジェットニードルとニードルジェットの組み合わせによって主に中間開度域の燃料供給量を調整します。アクセルを開けてニードルが上昇すると、ニードルジェットとの隙間が広がり、吸い出される燃料が増える仕組みです。
一方、TMR-MJNのMJNは「MULTIPLE JET NOZZLE」の略です。ヨシムラによると、通常のジェットニードルの代わりに微小な穴を複数設けた中空パイプ状のノズルを使用し、アクセル開度に応じて露出する穴から燃料を供給します。[参照:ヨシムラジャパン MJNとは]
ヨシムラはMJNについて、ボア中心部に燃料の吸い出し口を配置して微細な燃料粒を供給することで、良好な霧化、レスポンス、燃焼効率などを狙ったシステムと説明しています。つまりTMR-MJNは、単に通常TMRへ特殊なニードルを装着しただけではなく、燃料供給方式そのものに大きな違いがあります。
あえて通常TMRを選ぶ理由は「従来型のセッティング自由度」にある
通常TMRを好む理由として考えられるのが、ジェットニードルによる昔ながらのキャブセッティングを行えることです。ジェットニードルにはストレート径、テーパー形状、クリップ位置など複数の要素があり、それらを利用してアクセル開度に対する燃料特性を作り込めます。
キャブレターセッティングに慣れた人であれば、「この開度からもう少し濃くしたい」「低開度側はそのままで中開度から特性を変えたい」といった要求に対し、ジェットニードルの特性を理解しながら追い込むこと自体がメリットになります。
これはMJNより通常TMRのほうが高性能という意味ではありません。むしろ従来型ジェットニードルを使ったセッティング手法を熟知している人にとって、自分が理解している方法で狙った燃調を作れることが通常TMRの魅力と考えると分かりやすいでしょう。
MJNはむしろセッティングを容易にすることを狙ったシステム
ヨシムラはMJNのメリットの一つとして「容易なセッティング」を挙げています。セッティングの許容範囲を広くし、気圧などの変化に対する再セッティングの必要性を減らすことや、ニードル式と比較してセッティングパーツの点数が少なくなることを特徴として説明しています。[参照:ヨシムラジャパン MJNの特徴]
したがって、「MJNは調整が難しいから通常TMRを選ぶ」と一概に説明するのは正確ではありません。メーカー側の設計思想としては、MJNには燃料の霧化性能だけでなくセッティングしやすさも含まれています。
一方で、セッティングパーツが少ないことをメリットと感じる人もいれば、ジェットニードルの各要素を変更して燃調曲線を自分で組み立てられることを楽しむ人もいます。この部分はキャブレターに何を求めるかによって評価が変わります。
通常TMRを選びやすい人とTMR-MJNを選びやすい人
両者の特徴を整理すると、選択基準が分かりやすくなります。もちろんエンジン仕様や車種によって事情は変わるため、以下は絶対的な優劣ではなく考え方の目安です。
| 重視すること | 通常TMR | TMR-MJN |
|---|---|---|
| 燃料供給 | ジェットニードル+ニードルジェット | MJNによる多孔ノズル方式 |
| 従来型のセッティング手法 | 生かしやすい | 方式が異なる |
| ニードルによる作り込み | 魅力になり得る | MJNで調整する |
| 霧化性能 | 従来方式 | MJNが特に重視するポイント |
| レスポンス | TMR自体の高レスポンスが特徴 | MJNによるレスポンス向上も狙う |
| セッティングパーツ | 選択肢を使い分けて追い込む | ヨシムラは点数が少ないことを利点としている |
キャブを何度も開けながらジェットやニードルを変更し、エンジンの反応を見ながら自分で仕上げることが好きなら通常TMRは面白い選択です。一方、MJNの燃料霧化特性やリニアなレスポンスを重視するならTMR-MJNが有力になります。
MJNも現在はノズル交換による細かなセッティングが可能
注意したいのは、「通常TMRは細かく調整できるがMJNは調整できない」という理解です。現在のヨシムラには、TMR-MJN用のセッティングノズルであるMJN-PROが用意されています。
ヨシムラはMJN-PROについて、症状が発生するアクセル開度と濃い・薄いの状態を確認し、燃料突出面積の異なるMJNを選択する方法を案内しています。またクリップ段数による調整も可能です。[参照:ヨシムラジャパン MJN-PRO]
そのため、現在ではMJNでもかなり積極的なセッティングが可能です。ただし「ジェットニードルのストレート径やテーパーを考えながら合わせる」という通常TMRとは調整の考え方が異なります。この違いそのものが、キャブレター好きにとって選択理由になることがあります。
エンジン仕様との相性で選ぶことも重要
キャブレターは単体で性能が決まる部品ではありません。排気量、カム、バルブ、ポート、圧縮比、マフラー、エアクリーナーまたはファンネル、点火などによって要求される燃料特性は変化します。
例えば同じTMRでも、ほぼノーマルのエンジンと大幅にチューニングされたエンジンでは適正な口径やセッティングが同じとは限りません。さらに街乗り中心なのか、サーキットで高回転を多用するのかによっても重視する特性が変わります。
ヨシムラも車種別TMR-MJNについて口径やスピゴットなどを個別に設定しており、単純にMJNを装着すればどのエンジンでも同じ結果になるというものではありません。[参照:ヨシムラジャパン TMR-MJN]
キャブセッティングは全開だけで判断しない
TMRをセッティングするときは「メインジェットを何番にするか」だけに注目しないことが重要です。実際の走行ではアイドリング付近から低開度、中開度、全開まで幅広い領域を使用します。
特に街乗りでは全開時間より部分開度で走っている時間のほうが長くなります。低開度から一定速、そこからアクセルを開けた瞬間のつながりなどを確認しながら調整する必要があります。
濃すぎ・薄すぎの判断を誤った状態で高負荷運転を続けると、走行性能だけでなくエンジンへ悪影響を与える可能性があります。大幅にチューニングされたエンジンなら、空燃比計やシャーシダイナモなどを利用できる専門店でセッティングする方法も有効です。
まとめ:通常TMRをあえて選ぶ価値は十分にある
TMR-MJNには、ヨシムラ独自の多孔ノズルによる優れた霧化、レスポンス、燃焼効率、セッティングのしやすさといった明確な狙いがあります。そのためMJNが高く評価されていることには技術的な理由があります。
一方で、通常のジェットニードル式TMRをあえて使うことにも十分な理由があります。従来型キャブレターのセッティング手法をそのまま活用でき、ジェットニードルを中心に自分で燃料特性を作り込むことを重視する人には魅力的な選択です。
したがって「TMR-MJNがあるのに普通のTMRを選ぶのは意味がない」ということではありません。完成度の高いMJNシステムを生かしたいのか、それとも従来型ジェットニードルによる調整方法を積極的に使いたいのかという違いです。最終的にはエンジン仕様、用途、入手できるセッティングパーツ、そして調整する本人やショップの経験まで含めて選ぶのが合理的です。


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