モーターショーや展示会で登場するコンセプトカーの多くは、未来的で斬新なデザインに溢れています。ところが、実際に発売される市販モデルになると「なんだか普通の車になってしまった」と感じる方も少なくありません。この記事では、その背景にある自動車業界の事情やデザイン制約について、実例とともに詳しく解説します。
コンセプトカーは自由な発想のショーケース
コンセプトカーは、自動車メーカーが未来の技術やデザインを示すために開発する“夢の車”です。法規制や量産コストを考慮する必要がないため、非常に自由な発想でデザインされます。大胆な曲線、細いヘッドライト、ガルウィングドアなどが採用されているのはそのためです。
例えば、日産の「IMs」やトヨタの「LQ」などは、フルLEDの未来的な顔つきや、全面スクリーンのインテリアが話題となりました。これらは技術的に実現可能でも、コストや安全性の問題から市販車では再現が難しいのが現実です。
市販化の段階で変わる「現実的な制約」
コンセプトカーが市販車になる際には、さまざまな実用上の制約が加わります。まず最も大きいのが法規制です。例えば、歩行者保護の観点からバンパーの形状やヘッドライトの高さが定められており、コンセプトカーのように低く尖ったデザインはNGです。
また、量産化のための製造コストや、世界中での販売を見越した耐久性や整備性も考慮される必要があります。これにより、先鋭的なデザインの多くは実用性を優先して簡略化されてしまうのです。
安全性と法令遵守は不可欠な条件
自動車は命を預ける乗り物であり、あらゆる国の安全基準をクリアする必要があります。側面衝突への耐性、エアバッグの展開範囲、視界の確保、ブレーキランプの配置など、多岐にわたるルールが存在します。
例えば、細いAピラー(フロントガラスの両側)は視界が広がって魅力的ですが、強度不足でクラッシュテストをクリアできない場合があります。こうした法的・技術的なハードルを越えるために、デザインが“無難”になってしまうのです。
量産車にはコストパフォーマンスも求められる
市販車は、多くの人が購入しやすい価格帯で販売されることが前提です。コンセプトカーのような素材や特殊機構をそのまま使うと、一台あたりのコストが跳ね上がり、市場競争力を失ってしまいます。
例えば、展示会で人気を集めたスライドドアの開き方や、ガラスパノラマルーフ、回転式シートなどは、製品化すると数十万円〜百万円単位でコストアップすることも。その結果、購入者が現実的な価格帯で手に入れられるよう、仕様は簡素化されてしまいます。
かっこよさと実用性の“バランス”が鍵
とはいえ、全ての魅力が削ぎ落とされるわけではありません。近年ではコンセプトカーの要素を一部取り入れた市販車も増えてきました。たとえば、ホンダ「ヴェゼル」やマツダ「CX-60」は、スタイリッシュなデザインを保ちつつ、安全性やコスト面にも配慮された成功例です。
一部のプレミアムブランド(レクサス、BMW、アウディなど)は、価格に余裕がある分、コンセプトデザインを大胆に反映できる傾向もあります。つまり、“かっこよさ”をどこまで市販車に取り込めるかは、メーカーの戦略と技術の進歩にかかっているのです。
まとめ:市販車が「ありきたり」に見えるのは当然の事情
コンセプトカーはあくまで理想を形にした“ビジョン”です。一方で市販車は、現実社会で使われ、安全に、かつ価格競争に勝つ必要のある製品です。両者のギャップは自然なものであり、それぞれの役割を理解することで、より深く車のデザインを楽しむことができるでしょう。
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