マツダ3とNDロードスターは、いずれもP5-VP系の1.5L直列4気筒エンジンを搭載しており、型式だけ見れば同一のエンジンのように見えます。しかし、スペック表ではマツダ3が111ps、NDロードスターが131psと、明らかに性能に差があるのが分かります。なぜこのような違いが生まれるのでしょうか?本記事では、その違いの背景にあるチューニングや部品構成、そしてマツダの開発思想に迫ります。
P5-VPS/VPRとは?共通点と違いの概要
両車に搭載されるエンジンは「P5-VPS」または「P5-VPR」と呼ばれるSKYACTIV-G 1.5Lエンジンです。ボア×ストローク比は同じで、基本設計も共通しています。排気量は1496cc、直噴、可変バルブタイミングなどの仕様も同一です。
それにもかかわらず、最高出力やトルク特性、エンジンフィールには顕著な違いが出ています。
馬力差はどこから?制御・吸排気系の違い
NDロードスターが131psを発揮する一因は、エンジン制御マップ(ECU)の違いにあります。マツダ3は燃費と静粛性を優先したマッピングが施されている一方、NDロードスターは回転上昇や高回転域でのレスポンスを重視したセッティングになっています。
さらに、吸排気系の設計が異なります。NDロードスターは専用設計のエアクリーナー、吸気マニホールド、そして排気効率の高いエキゾーストマニホールドを採用しており、これが高回転出力に寄与しています。
メカニカルな変更点はあるのか
見た目は同じでも、内部パーツにわずかな変更があります。たとえばNDロードスターでは、バルブスプリングの強化や、カムプロフィールの微調整などが行われており、これにより7000rpmまでストレスなく回る仕様となっています。
クランクシャフトやピストンは基本共通ですが、細部の部品(点火プラグの熱価、オイルポンプ容量など)には差異があります。これらは量産効果を維持しながらもスポーツカーらしい特性を出すための工夫です。
開発コストを抑える「共通化と専用化」の絶妙なバランス
エンジンを完全に専用化するとコストが跳ね上がりますが、マツダはコア部分を共通化しつつ、性能に影響する部分だけを変更することで、バリエーション展開とコスト管理を両立しています。
この手法は、コンパクトカーからライトウェイトスポーツまで展開するメーカーにとって非常に有効です。たとえば同じブロックを使いつつ、センサー設定や吸排気の構成を変えるだけでまったく違うキャラクターのエンジンに仕上げられるのです。
実際の走行フィールの違い
実際に乗り比べると、NDロードスターは7000rpm近くまで一気に吹け上がるスポーティなフィーリングが特徴です。軽快で俊敏、かつエンジン音も高揚感があります。
一方マツダ3は、街乗りでのトルク感と静粛性を重視。アクセルを軽く踏んだだけで十分な加速が得られ、高速巡航でもエンジン音は抑えられています。つまり、目的に応じたキャラクター分けが明確にされているのです。
まとめ:同じエンジンでも“味付け”で別物に
P5-VP系エンジンは共通設計をベースにしながらも、ソフト面(ECU制御)や吸排気系の違いによって、全く異なる走行体験を生み出しています。
クランクやブロックといった高コストな部品を共通に保ちつつ、要所だけを最適化することで、マツダはロードスターとマツダ3にふさわしい「性格付け」を実現しています。結果的に、同じ型式のエンジンでも「別物」と感じられる乗り味が作られているのです。
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