トヨタのGRヤリスは、見た目も性能も通常のヤリスとは一線を画していますが、なぜ同じ「ヤリス」という車名が使われているのでしょうか?この記事では、GRヤリスというモデルに「ヤリス」の名が使われている理由と、その背後にある開発思想やブランド戦略について解説します。
GRヤリスとヤリスはまったくの別物?
一見同じ車名を持つ「GRヤリス」と「ヤリス」ですが、その構造は大きく異なります。GRヤリスはWRC(世界ラリー選手権)参戦を目的に、トヨタが専用開発したスポーツモデルで、ボディ構造、駆動方式、エンジン、シャシーすべてが通常のヤリスとは別物です。
たとえば、GRヤリスは3ドアボディに専用プラットフォーム(TNGA GA-B + GA-Cのハイブリッド構造)を採用し、4WDシステムを搭載しています。対して一般的なヤリスは5ドアFF車が中心です。
なぜ「ヤリス」の名を使うのか?
それでもあえて「ヤリス」の名を残した理由は、市販車ベースのホモロゲーションモデルであることにあります。WRCに出場するには、一定数以上の市販車を販売する必要があり、その際に「既存モデルをベースにしている」という名目が必要となります。
つまり「GRヤリス」は、車体構造的にはヤリスとは異なるものの、WRCのホモロゲーション要件を満たすため、「ヤリス」という名前を使う必要があったのです。
ブランド戦略としての「ヤリス」
また、マーケティング的にも「ヤリス」という名前はトヨタにとって重要な市販モデルブランドです。GRヤリスに「ヤリス」の名を付けることで、一般ユーザーにも親しみやすく、ヤリスブランドのスポーツイメージを強化する狙いがあります。
トヨタのGRシリーズ(GRスープラ、GR86、GRヤリスなど)は、それぞれに専用開発がなされていますが、あえて既存車名を使うことで、一般車とモータースポーツをつなぐ架け橋としての役割を果たしています。
外観が似ているのはテールランプくらい?
GRヤリスと通常のヤリスの外観上の共通点は確かに限られています。ぱっと見でわかるのはテールランプ周りのデザイン程度で、前後バンパー形状、フェンダーの張り出し、ルーフ素材(GRヤリスはCFRP製)など、大きな違いがあります。
実際に車体サイズも異なり、GRヤリスの方が幅広で低重心に設計されており、ドア枚数も3ドアと一般ヤリスとは全く違います。これは、ラリー競技を想定した設計であることの証です。
GRヤリスの正体は「モータースポーツのための公道車」
GRヤリスは市販車というより、ラリーカーの公道仕様車と言った方が正確です。WRCにおける勝利のために、トヨタが社運をかけて作り上げた「モータースポーツ直結型」モデルです。
そのため、GRヤリスの設計思想には「市販車の延長線上にあるスポーツモデル」とは異なる次元のものが込められています。
まとめ|名前以上に“中身”が違うGRヤリスの魅力
GRヤリスは「ヤリス」という名前こそ共通していますが、中身はまったく異なるラリー直系のスポーツモデルです。名称にはWRCホモロゲーションやブランド戦略といった背景があるため、ただのグレード違いと考えるのは早計です。
GRヤリスは「ヤリスの名を借りた別格の1台」。スポーツカーとしての価値はもちろん、開発背景を知ることでより深くその魅力を感じられるでしょう。
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