バイクの価格に関して「昔は安かった」と語る声をよく耳にします。しかし、本当にそうだったのでしょうか?1980~1990年代の名車たちの定価や当時の物価水準、実際の購入事情を振り返ると、現在のバイク価格との単純な比較では見えてこない背景が浮かび上がってきます。
1980年代のバイク価格とその実感
1980年代はバイク技術の進化が著しく、いわゆる「スペック至上主義」の時代でした。たとえばホンダのCBR400RRは定価が約73.9万円(※画像参照)。NSR250Rも80万円前後でした。高性能化に伴って価格も上昇傾向にあり、特に中型・大型スポーツモデルは高額商品でした。
当時の平均年収は約300~400万円であり、70万円台のバイクは決して「手軽」な買い物ではなく、むしろ高額商品といえる存在だったのです。
物価指数から見る実質価格の比較
1985年の大卒初任給が約14万円、現在が約22万円とすると、物価や収入水準はおおよそ1.5~1.8倍ほどの差があります。つまり、当時の70万円のバイクは、現在の感覚でいうと120万~130万円程度の負担感があったことになります。
したがって「昔のバイクが圧倒的に安かった」とは一概に言いきれず、今と同じく「高性能モデル=高額」という構造は変わっていないのです。
当時の値引き文化と投げ売りの実態
一方で、当時は「不人気モデルの大幅値引き」や「売れ残り新車の投げ売り」が珍しくなく、MVX250Fが定価40万円→実売15万円、RZ250Rが半額で販売された事例などもあります。これはメーカーが急成長・乱発した反動で在庫が捌けず、市場原理で値崩れが起きたためです。
ただし、そうした激安車両はごく一部に限られ、人気モデルは定価に近い価格で取引されていたのが実情です。
現在の価格構成と「高く感じる」理由
現代のバイクは、環境規制・安全装備・電子制御の搭載などによって製造コストが高騰しています。さらに流通数が減り、生産規模の効率性も下がっており、価格が上がりやすい状況です。
また、「車体価格+初期費用+任意保険+メンテナンス」という総額感が重くのしかかり、昔よりも割高に感じるのは当然といえるでしょう。
「高かったが、夢があった」時代
80~90年代のバイクは、スペック競争が生んだ高性能と個性的なデザイン、メーカーの開発熱意が魅力でした。NSR、CBR、TZR、FZRなどが切磋琢磨し、若者にとっては「高嶺の花」でありながらも憧れの存在でした。
高価であっても「所有する価値」が強く意識されていた時代だったともいえるでしょう。
まとめ:昔も今もバイクは簡単に買えるものではなかった
物価・平均収入・スペック価値を踏まえると、80年代のバイクは決して「安かった」とは言いきれません。ただし、市場の勢いと値引き文化により、現在よりも「手に入れやすい錯覚」があったのも事実です。
バイクは時代ごとにその価値や魅力が変化しますが、いつの時代も「乗る人の情熱」によって支えられている点は変わらないのです。
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