モリワキMH80Rの中古車やCR80R系エンジンを入手すると、キャブレターが前オーナーによって変更されていることがあります。特に判断に迷いやすいのが、スロットルバルブ(スロットルスライド)のカットウェイ番号です。メインジェットやスロージェット、ジェットニードルは資料に記載されていても、スロットルバルブについては年式や資料によって確認しにくい場合があります。
さらにMH80Rは独立した専用エンジンを搭載した車両ではなく、ホンダCR80R系のエンジンを利用したレーサーです。そのため、標準状態へ戻す場合にはMH80Rという車名だけで判断せず、搭載されているCR80Rエンジンの年式・キャブレター型式を特定することが重要になります。
MH80RはCR80Rのエンジンを搭載したロードレーサー
MH80Rはモリワキエンジニアリングが製作した小排気量のロードレーサーで、ホンダNS-1系の車体をベースにCR80Rの2ストロークエンジンを搭載したことで知られています。モリワキ自身もMH80Rについて、ライディング技術を磨くために開発したマシンとして紹介しています。[参照]
したがってエンジンやキャブレターを整備するときには、CR80R側のサービスマニュアルやオーナーズマニュアルが非常に重要な資料になります。一方でCR80Rは長期間販売されており、年式によって仕様変更があります。
中古のMH80Rではエンジンそのものが載せ替えられている可能性もあります。車体のおおよその製造年だけを基準に部品を注文すると、本来とは異なるキャブレター部品を選択してしまうことがあるため注意が必要です。
スロットルバルブの5.0とは何を意味するのか
2ストローク車のキャブレターで使われるスロットルバルブには、吸気側の下端に切り欠き(カットウェイ)があります。一般的なキャブレターでは、このカットウェイの違いによって主にスロットルを開け始めた領域の混合気に影響が出ます。
例えば同系列のスロットルバルブに#4.5や#5.0などが設定されている場合、数字が大きいものほどカットウェイが大きくなります。一般にはカットウェイを大きくすると同じ条件では混合気が薄くなる方向、小さくすると濃くなる方向へ作用します。実際にキャブレター部品の資料でも#4.5から#5.0への変更を薄くする方向として示している例があります。
そのため、5.0のスロットルバルブと通常より濃い方向のジェットニードルが組み合わされている中古車では、前オーナーがそれぞれの領域を考慮して独自にセッティングしていた可能性があります。ただし、部品の組み合わせだけから過去の調整意図を断定することはできません。
MH80Rの標準スロットルバルブ番号は年式を特定して確認する
ここで重要なのは、MH80Rすべてに共通する一つのスロットルバルブ番号がある、と考えないことです。MH80RにはCR80R系エンジンが使われていますが、CR80Rは複数年式にわたる競技車両で、キャブレター仕様にも変更があります。
確認できるCR80Rのサービスマニュアルでも、1985年から1994年までの各仕様が一冊の中で年式別に扱われており、燃料系についてもキャブレター調整、スロットルバルブ、ジェット類などが独立した整備項目として扱われています。[参照]
したがって、車両の年式が不明な状態で「5.0ではないから○番が正解」と断定して交換するのは避けた方が安全です。まずエンジン番号、キャブレター本体の刻印・型式、現在装着されているジェット類を確認し、その仕様に対応するCR80Rのオーナーズマニュアルまたはサービス資料と照合する方法が確実です。
パーツリストだけでは標準番手が分からないことがある
純正パーツリストを調べてもスロットルバルブのカットウェイ番号が見つからないケースがあります。これは珍しいことではありません。パーツリストは基本的に部品の特定と注文を目的とした資料であり、キャブレターセッティングの全数値を説明する整備資料とは役割が異なるためです。
部品番号だけが掲載され、そこから#3.0、#4.0、#5.0といった実際のカットウェイ番号を読み取れない場合もあります。この場合は、同じ年式のオーナーズマニュアル、サービスマニュアル、キャブレターメーカーの資料を組み合わせて確認します。
特に競技用2ストローク車では、気温、標高、湿度などによってキャブレターセッティングを変更することが前提です。CR80R用のジェッティング資料でも、メインジェット、ニードル、パイロットジェット、エアスクリューだけでなくスロットルバルブも調整要素として扱われています。
標準状態へ戻すならスロットルバルブだけ交換しない
中古レーサーのキャブレターを標準状態へ戻す場合、スロットルバルブだけを純正相当品へ交換する方法はおすすめできません。キャブレターは複数の燃料系統が重なり合って働いているためです。
確認したい主な項目は、スロットルバルブのカットウェイ、ジェットニードルの型番、ニードルクリップ段数、メインジェット、スロージェット(パイロットジェット)、エアスクリュー戻し量、フロートレベルです。さらにキャブレター本体が本来の型式かどうかも確認します。
例えば5.0のスロットルバルブに濃いニードルが装着されている状態から、スロットルバルブだけ小さなカットウェイへ変更すると、低開度から中開度付近で想定以上に濃くなる可能性があります。逆にニードルだけ標準へ戻せば薄くなる領域が生じる可能性もあります。標準へ戻すのであれば、キャブレター全体を一つのセットとして基準値へ戻すのが基本です。
2ストロークレーサーでは「標準値=常に最適値」ではない
CR80Rのサービス資料でも、キャブレターは平均的な負荷・気候・気圧条件を想定して設定され、実際の条件に合わせた調整が必要であることが説明されています。つまり標準セッティングは重要な出発点ですが、どの環境でも絶対に最適という意味ではありません。
例えば同じ車両でも、真冬の低温時と真夏の高温時、標高の低いサーキットと高地のコースでは空気密度が異なります。チャンバー、サイレンサー、リードバルブ、エアクリーナーなどが変更されていても要求される燃調は変化します。
特に2ストローク競技エンジンで極端に薄いセッティングにすると、デトネーションや焼き付きなど重大なエンジントラブルにつながる可能性があります。標準値へ戻した後も、プラグ、燃焼状態、レスポンスなどを確認しながら安全側から調整する必要があります。
中古MH80Rで最初に確認しておきたいポイント
長期間にわたって競技に使われてきたMH80Rでは、キャブレター以外も変更されている可能性があります。そのため「純正セッティングへ戻らない」と感じた場合には、燃調部品以外にも目を向ける必要があります。
- 搭載されているCR80Rエンジンの年式・エンジン番号
- キャブレターのメーカー、型式、口径、刻印
- スロットルバルブの番号
- ジェットニードルの刻印とクリップ位置
- メインジェットとスロージェットの番手
- エアスクリューの戻し量
- フロートレベル
- エアクリーナー・ファンネルの仕様
- リードバルブの仕様
- シリンダーやポート加工の有無
- チャンバー・サイレンサーの仕様
これらを一覧にしてから該当年式の資料と比較すると、どこが標準から変更されているのかを切り分けやすくなります。中古レーサーでは「キャブだけノーマル」という前提を置かないことが大切です。
まとめ:MH80RはCR80Rの年式とキャブ型式を特定してから標準値へ戻す
MH80RはCR80R系のエンジンを搭載したレーシングマシンであり、キャブレターの標準値を調べる場合もCR80R側の年式・仕様を特定することが出発点になります。スロットルバルブに5.0が入っているからといって、その情報だけで本来の標準番号を一意に決めるのは危険です。
特に中古車で5.0のスロットルバルブと濃い方向のニードルなどが組み合わされている場合、過去にセットで燃調が変更されていた可能性があります。標準化するならスロットルバルブだけではなく、ニードル、ジェット、クリップ段数、エアスクリュー、油面などを同一年式の基準へまとめて戻すのが合理的です。
最終的にはエンジン番号とキャブレター刻印から仕様を特定し、該当年式のホンダCR80Rオーナーズマニュアルまたはサービスマニュアルを一次資料として確認するのが確実です。古い競技車両では仕様変更や載せ替えも多いため、年式を特定できない場合はモリワキやホンダ系競技車に詳しい専門店へ現物を持ち込み、部品番号とキャブレター本体を照合してもらう方法が安全です。


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