中古車を買取業者に査定してもらい、その場で売買契約を結んだ後になって、異音や操作上の違和感、傷などが気になることがあります。この場合、「引き渡し後に再査定されて減額されるのではないか」「申告しなかったことで損害賠償を請求されるのではないか」と不安になる人もいるでしょう。
結論から整理すると、契約後に不具合が見つかったからといって、買取業者が当然に好きな金額まで減額できるわけではありません。一方で、売主が認識していた走行上の不具合を契約上申告すべきだった場合には、責任が問題になる可能性があります。重要なのは、査定で確認できる内容だったのか、売主が知っていたのか、契約書で何を申告することになっていたのかという点です。
現在の法律では「隠れた瑕疵」より契約不適合責任が基本
2020年4月施行の改正民法では、従来の「瑕疵担保責任」に代わり、売買の目的物が契約で合意した品質などに適合しているかを基準とする「契約不適合責任」が定められています。民法562条から564条では、一定の場合に追完、代金減額、損害賠償、解除などが問題になります。[参照]
したがって、契約書に「隠れた瑕疵」という古い表現が残っていたとしても、実際の責任関係は契約内容と現在の民法を踏まえて判断する必要があります。単に中古車に故障があったという事実だけで、直ちに売主が全面的に責任を負うわけではありません。
また、契約書には独自の申告義務や契約解除条件が定められている場合があります。中古車売却はクーリング・オフの対象ではなく、契約後は契約書の条項が重要になるため、まず手元の売買契約書・約款・車両状態申告書などを確認することが出発点です。
査定のプロが確認できた傷や修復歴は「見落とし」が問題になる
国民生活センターは、中古車の買取業者について「査定のプロとしての注意を払って買取金額を算出している」とし、契約後に修復歴や事故歴の見落としを理由として減額や解約を求められても、原則として応じる必要はないと案内しています。ただし、売主が修復歴や事故歴を知っていた場合には申告するよう注意喚起しています。[参照]
たとえばサイドステップに20cm程度の傷があり、査定担当者が車両の外装を実際に確認していたのであれば、傷の位置や状態にもよりますが、通常の外観確認で発見できたものかどうかが重要になります。明らかに見える傷について、後から「発見したので一方的に査定額を下げます」とすることには疑問が生じます。
JPUC(日本自動車購入協会)も、専門業者が通常の注意を払えば発見できた修復歴については、業者側の査定上の過失となり、消費者に契約不適合責任を問えない場合があると説明しています。[参照]
ステアリングの引っかかりや異音は少し事情が異なる
外から確認できる傷とは別に、ステアリングを切った際の引っかかりや擦れるような音といった走行上の不具合は、短時間の査定だけでは分からない場合があります。エンジンを始動しただけで試運転や据え切り確認をしていなければ、担当者が気付かなかった可能性もあります。
そして、売主自身が以前から「引っかかる感じがある」「異音がする」「運転しづらい」と認識していた場合は、単なる業者側の見落としだけで処理できない可能性があります。JPUCも、メーター交換歴、災害歴、修復歴とともに「走行上の不具合」がある場合には、消費者は契約締結時に判明している範囲で申告するよう案内しています。[参照]
「不具合はありません」と虚偽の説明をしていないことは重要な事情ですが、「聞かれなかったから何も言わなくてよい」と必ずしも断定できません。契約書や車両状態申告書に「走行上の異常」「故障」「知っている不具合」を申告する条項があるなら、その内容が特に重要になります。
契約後の減額・損害賠償・解除は自動的に認められるわけではない
仮に引き渡し後に業者が不具合を発見したとしても、「修理代が10万円だから買取価格を10万円下げます」と業者が一方的に決めれば必ず有効になる、というものではありません。契約内容、査定で発見可能だったか、売主の認識や申告内容、不具合の程度、減額額の根拠などを検討する必要があります。
JPUCのモデル約款では、一般的・標準的な車両検査でも判明しない契約不適合が発見された場合、まず売主と買主で協議する仕組みが示されています。十分な協議をしても合意できない場合などに契約解除が問題になる構成であり、「引き渡し後に何か見つかったら自動的に減額」という考え方ではありません。[参照]
また、査定業者自身の確認不足まで消費者へ全面的に転嫁する契約条項については、消費者契約法上の問題が生じる可能性もあります。実際に減額や違約金を請求された場合は、その場で了承せず、具体的な不具合箇所、査定時に確認できなかった理由、契約条項、減額額の算定根拠を文書で説明してもらうことが大切です。
引き渡し前に気付いているなら今から伝えて記録を残すのが安全
車両をまだ引き渡していないのであれば、既に認識しているステアリングの違和感や異音について、今の段階で買取業者へ連絡しておく方法が最もトラブルを減らしやすいでしょう。「査定時には特に質問されなかったが、以前からステアリングを切ると引っかかる感覚と擦れるような音がある」と、分かっている事実だけを伝えます。
原因まで自分で断定する必要はありません。「ステアリングラックが故障している」などと診断していないことまで言う必要はなく、実際に感じている症状を正確に伝えれば十分です。同様にサイドステップの傷についても、気になるのであれば「査定時にも存在していた傷」として写真を残しておくとよいでしょう。
電話だけでなくメールやSMSなど記録の残る方法も利用し、現在の車両状態を写真・動画で保存しておくと、引き渡し後に「輸送中にできた傷なのか」「契約時から存在していたのか」という別の争いを防ぎやすくなります。陸送会社へ渡す直前にも車両全体を撮影しておくと安心です。
後から減額を要求されたときの確認ポイント
業者から連絡が来ても、まずは理由を確認します。特に重要なのは「何が不具合なのか」「査定時にはなぜ確認できなかったのか」「契約書のどの条項に基づく請求なのか」「いくら減額し、その金額をどう計算したのか」の4点です。
| 確認事項 | ポイント |
|---|---|
| 不具合の具体的内容 | 単なる経年劣化なのか、重大な故障なのかを明確にする |
| 査定時に確認できたか | 通常の査定で発見可能だったなら業者側の見落としが問題になる |
| 契約上の申告義務 | 売主が知っている不具合を申告する条項の有無を確認する |
| 減額の根拠 | 一方的な金額ではなく修理費などの具体的根拠を確認する |
説明に納得できない場合は、その場で減額への同意書などへサインしないことも重要です。消費者庁は中古車の売却トラブルについて、消費生活センターやJPUC車売却消費者相談室への相談を案内しています。消費者ホットラインは188、JPUC車売却消費者相談室は0120-93-4595です。[参照]
まとめ:査定の見落としと知っていた不具合の未申告は分けて考える
中古車の買取契約後に傷や不具合が見つかっても、それだけで買取業者が自由に減額・損害賠償・契約解除をできるわけではありません。通常の査定で発見できた傷や修復歴については、プロである買取業者の査定上の見落としが問題になることがあります。
一方、ステアリングの引っかかりや異音など、売主が以前から認識していた走行上の不具合については事情が異なります。「不具合はない」と嘘をついていなくても、契約書上、知っている走行上の不具合を申告することになっていれば責任を問われる可能性があります。最終的な結論は契約書と具体的な査定状況によって変わります。
まだ車両を引き渡していないのであれば、分かっている症状を今のうちに事実ベースで業者へ伝え、写真や連絡履歴を残しておくことが安全です。そのうえで引き渡し後に一方的な減額を求められた場合は即答せず、契約条項と査定時の確認状況、請求金額の根拠を確認し、必要ならJPUCや消費生活センターへ相談するとよいでしょう。

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