一般的な乗用車では1Lの燃料で十数kmから20km以上走れる車種がある一方、大型の路線バスでは数km/Lという燃費になることがあります。この数字だけを見ると、「軽油よりガソリンのほうが効率が良いのでは」「ガソリンエンジンのバスを作ればもっと走るのでは」と感じるかもしれません。
しかし、これは燃料の違いよりも比較している車両の大きさ・重量・走行条件がまったく違うことによる影響が大きいです。大型バスをガソリン化しても、乗用車のように18~20km/Lで走れるようになるわけではありません。
さらに重要なのは、体積当たりのエネルギー量は、実はレギュラーガソリンより軽油のほうが大きいという点です。大型商用車でディーゼルエンジンが長く使われてきたのには、燃費だけでなく低回転トルク、耐久性、運行コストなど複数の理由があります。
バスが2~3km/Lでもディーゼルの効率が悪いとは限らない
乗用車と大型バスのkm/Lをそのまま比較するのは適切ではありません。乗用車は1~2トン程度の車体で数人を運ぶのに対し、大型路線バスは車両自体が非常に重く、そこへ数十人の乗客を乗せて走ります。
しかも路線バスは、停留所や信号のたびに停止し、重量のある車体をゼロから何度も加速させます。エアコンなどの補機も使用します。一定速度で長距離を走る乗用車とは、燃料を消費する条件が大きく異なります。
国土交通省が公表している重量車の燃費基準でも、路線バスは車両総重量によって区分され、重い車両ほど基準値が低く設定されています。実際の燃費も乗車人数、渋滞、勾配、空調、運転方法などで変化するため、「バスは2~3km/Lだからディーゼルは非効率」と結論付けることはできません。[参照:国土交通省 自動車燃費一覧]
実は1L当たりのエネルギーは軽油のほうが多い
「ガソリンのほうがエネルギーが高い」というイメージがありますが、1Lという体積を基準にすると逆です。資源エネルギー庁の2023年度改訂値では、レギュラーガソリンの総発熱量は33.32MJ/Lです。一方、軽油は37.87MJ/Lとされています。[参照:資源エネルギー庁 標準発熱量・炭素排出係数]
| 燃料 | 総発熱量の目安 |
|---|---|
| レギュラーガソリン | 33.32MJ/L |
| 軽油 | 37.87MJ/L |
つまり同じ1Lなら、軽油にはガソリンより約14%多いエネルギーが含まれている計算です。ただし、燃料の発熱量がそのままタイヤを動かすエネルギーになるわけではありません。実際の燃費にはエンジンの熱効率や運転条件なども大きく関係します。
大型バスにディーゼルエンジンが向いている理由
ディーゼルエンジンは一般に高い圧縮比を利用でき、実用領域で高い熱効率を得やすい特徴があります。また大型商用車では、低い回転数から大きなトルクを発生させやすいことも重要です。
大型バスでは、重い車体を停止状態から発進させる場面が何度もあります。最高回転数まで回して大きな出力を得ることより、日常的に使用する低~中回転域で重量物を動かせる特性が求められます。
さらに路線バスは毎日長時間走行するため、エンジンの耐久性や燃料費も重要です。こうした大型商用車特有の要求を総合すると、長年ディーゼルが合理的な動力源として採用されてきたわけです。
ガソリンで走るバスは作れる?実際にガソリン小型バスは存在する
ガソリンエンジンでバスを走らせること自体は可能です。「バスはディーゼルでなければならない」という仕組みではありません。
実際、国土交通省の自動車燃費性能の公表資料には「ガソリン小型バス」という分類があり、トヨタや日産の車両が掲載されています。つまり、ガソリンで走るバスは現実に存在しています。[参照:国土交通省 自動車の燃費性能に関する公表]
一方、何十人も乗せる大型路線バスでは事情が変わります。同じ車体をガソリンエンジンで動かしたからといって、ディーゼルより劇的に燃費が良くなるとは考えにくく、むしろ大型商用車ではディーゼルの特性が適しています。そのためガソリンは小型バスでは選択肢になるものの、大型路線バスでは主流になっていません。
乗用車18~20km/Lと大型バス2~3km/Lを比較するときの落とし穴
燃費を考えるときには「1Lで車が何km進めるか」だけでなく、「その燃料で何人を何km運べるか」という視点もあります。公共交通では、この考え方が重要になります。
例えば仮に50人を乗せたバスが3km/Lで走ったとします。1Lで車両自体が進む距離は3kmですが、輸送量として考えると50人を3km運んでいるため150人km/Lになります。
一方、20km/Lの乗用車に1人だけ乗っているなら20人km/Lです。もちろん実際の乗車率や道路条件によって結果は変わりますが、車両単体のkm/Lだけでは輸送機関としての効率を正しく比較できないことが分かります。
CNGなどガスで走るバスも存在する
バスにはディーゼル以外にも、CNG(圧縮天然ガス)を燃料とする車両が実用化されてきました。天然ガスを高圧で圧縮し、車体に搭載したガス容器へ貯蔵してエンジンへ供給する方式です。
CNG車の燃費はガソリンや軽油と同じ「km/L」で単純比較できないことに注意が必要です。気体燃料では「km/Nm3」など体積基準で表示される場合があり、さらにガスの発熱量をそろえなければ公平なエネルギー効率比較になりません。
そのため「CNGバスは何km/Lか」という一つの数字を示すのは適切ではありません。車種、車両重量、走行モード、天然ガスの計量単位などを合わせて比較する必要があります。特にディーゼルのLとCNGのNm3は異なる単位なので、数字の大小だけを比べないことが大切です。
現在はディーゼル以外にハイブリッド・EV・燃料電池という選択肢もある
路線バスは「停車と発進を何度も繰り返す」という特殊な使い方をします。この特徴と相性が良いのが、減速時のエネルギーを回収できるハイブリッド車や電気バスです。
従来のエンジン車ではブレーキ時の運動エネルギーの多くを熱として捨てていましたが、電動車では回生ブレーキによって一部を電気として回収し、次の発進などに利用できます。停留所が多い路線ほど、この仕組みを活用できる場面があります。
そのため現代のバスでディーゼル以外の動力源を検討するときは、「ガソリン化すればよい」というより、ディーゼルハイブリッド、EV、燃料電池なども含めて、車両価格、航続距離、充電・燃料供給設備、運行距離、環境性能などを総合的に比較する方向になっています。
まとめ:バスの燃費が低い最大の理由は軽油ではなく車体と使い方
大型バスが2~3km/L程度しか走らないことがあるのは、軽油という燃料の効率がガソリンより極端に悪いからではありません。大きく重い車体に多数の乗客を乗せ、停止と発進を繰り返すという使用条件が乗用車とはまったく異なることが大きな理由です。
また1L当たりの総発熱量はレギュラーガソリン約33.32MJに対して軽油約37.87MJであり、体積当たりでは軽油のほうが高エネルギーです。ディーゼルエンジンは熱効率や低回転トルクなど大型商用車に適した特徴を持つため、大型バスで長く主流となってきました。
ガソリンバスを作ることは可能で、実際にガソリン小型バスも存在します。ただし大型バスをガソリン化すれば乗用車並みの燃費になるわけではありません。CNGバスについても燃費の単位が異なるため単純なkm/L比較は避け、現在ではハイブリッド、EV、燃料電池まで含めて「投入したエネルギーでどれだけ効率よく人を運べるか」という視点で考えるのが適切です。


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